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盛岡家庭裁判所 昭和33年(家イ)95号 審判

申立人 菅原桂子(仮名)

相手方 野村浩(仮名)

主文

相手方野村浩を過料一、〇〇〇円に処する。

理由

上記当事者間の当庁昭和三三年(家イ)第九五号内縁関係解消等調停事件につき、当裁判所調停委員会は、申立人及び相手方が出頭して開いた昭和三三年六月一七日午前一〇時の第三回調停期日を終了するにあたり、次回期日として同年七月九日午前一〇時と指定する旨を告知したが、相手方はその期日に正当な事由がないにもかかわらず出頭しなかつた。また同じく昭和三三年七月二二日午前一〇時に開いた第五回調停期日にも相手方が出頭しなかつたため、次回期日を同年八月五日午前一〇時と指定し、相手方に対してその期日の呼出状を同年七月二三日適法に送達したが相手方はその期日にも正当な事由がないにもかかわらず出頭しなかつた。よつて、当裁判所は家事審判法第二七条、非訟事件手続法第二〇八条の二第一項を適用して、主文のとおり審判する。

なお、この過料の審判の意義及び効果について一言つけ加える。(一)家庭裁判所における調停は、家庭に関する事件一般につき、家庭内の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とするが、これが進められるにあたつては当事者の互譲を基調とするものであつて、国家機関が強権力を発動し当事者の本意に反する結果をもたらすような性質のものではない。そして、このようにして行われる調停が成立するかどうか、或は成立する場合における調停条項の内容などは主として当事者の意思によつて決定されるのである。しかしながら、このことと指定された調停期日に呼出を受けた当事者が裁判所に出頭せねばならぬ義務があるということは、まつたく別個の問題である。すなわち、指定された日に当事者が出頭するかどうかまで当事者の自由に任されたものではなく、期日に出頭できないことにつき正当な事由があると認められる場合にだけ不出頭が許されるにすぎない。したがつて、指定された期日が当事者にとつてどうしても都合が悪くて出頭できないような場合には、その事情及びそれを証明又は疎明することのできる書面などがあればそれを添えて、なるべく早目に裁判所に届け出なければならない。ところで、相手方は上記のとおり昭和三三年七月九日午前一〇時と同年八月五日午前一〇時と指定された各調停期日に出頭しなかつたが、それらがやむを得ない事由に基くものであることを明らかにする何らの届出をもしないので、当裁判所としては上記のように相手方が正当な事由がないにもかかわらず出頭しなかつたものと認めるほかはなかつたわけである。それらの期日には裁判所の関係職員はもとより担当調停委員及び申立人ら本件調停事件の関係者が相手方の出頭があるものと考え、長時間にわたつて待つていたのである。かような事態を招いたのは、何としても相手方の不出頭に基くのであるからその責任を問わねばならぬことは当然といわねばならないので、上記のように相手方を過料に処することとした次第である。今後の調停期日に、もし相手方が引続き出頭できない事情を明らかにしないままに不出頭を続けると、さらに第二第三の過料を受けることもありうるから、次回期日以降にはそのようなことにならないように期待する。(二)また、相手方において上記調停期日に出頭しなかつたことにつき正当な事由があり、或はそのほかにこの過料の審判に不服があるときは、この審判の送達を受けた日から一週間内に異議の申立をすることができ、異議の申立があるとこの審判はその効力を失い、更に申立人の主張を審査し改めて審判をすることになるものであるからその点を念のため付言する。

(家事審判官 岡垣学)

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